今は携帯する時計といえば腕時計ですが、1900年頃までは主に懐中時計という少し大型の時計が使われていました。近年では殆ど使われる事も無くなり、見たことすら無い人も多いのではないでしょうか。私は腕時計に投資する中でアンティークの懐中時計にも興味を持ち、海外のオークションサイトなどで買い集めるようになりました。その魅力を少しご紹介したいと思います。
比較的入手しやすく、価格が手頃
懐中時計の歴史は比較的新しく、1800年中頃から1900年初頭まで盛んに生産されていました。当時の価格はグレードにより異なりますが、数万円から100万円を越すような物もあったそうです。恋人や子供へ名前とメッセージを彫ったプレゼントに使われる事も多く、大事に保管され現存数が多いことも入手し易さに繋がっています。装飾の少ない普及品であれば、オークションサイトのeBayで1万円程度から動作する懐中時計を購入できます。
現代では考えられない程美麗な装飾
一番の魅力はこれです。文字盤、ケース、ムーブメント、そのどれも素晴らしい装飾が施されていますので、手元のコレクションからいくつかご紹介します!
当時の文字盤はエナメル製の陶器で作られており、そこにゴールドやシルバー、宝石で装飾が施されています。数字や社名のサインも手描きで描かれており、非常に手間が掛かっていると同時に1つ1つ違う味があります。残念なのは衝撃や乾燥に弱く、表面にヒビの入ったものが多いことです。
懐中時計は腕時計と比べて大型なので、大きな面積のケースに美麗な装飾を施すことが可能です。こちらは18K無垢のケースに銅や銀を混ぜたカラーゴールド、パールやダイヤモンドで装飾を施したものです。ここまで細かな装飾があるものはオークションでもなかなか見掛けません、これはたまたま国内オークションで落札できたものです。これらも全てが手作業で作られていますが、現代で再現するには相当の金額が掛かるのではないかと思います。
普段は外から見えることの無いムーブメントまで美しく磨き上げられています。当時はめっきなどの防錆処理方法も無かったため、ネジは鉄に酸化皮膜を作る青焼きという手間の掛かる処理が施されています。
これらは全て100年程前に作られたものですが、そんな時代を経たと思えないほど綺麗な状態を保っています。大事に保管されてきたと同時に当時の物造りのレベルの高さが伺えます。
懐中時計の3大メーカー
現代でも残る有名メーカーは懐中時計も生産していましたが、懐中時計に特化していた3大メーカーをご紹介します。また時計といえばスイスが有名ですが、懐中時計の商業的な大量生産を成功させたのはアメリカのメーカです。
American Waltham
懐中時計といえばここを外すことは出来ないと思います。1850年に設立され、大量生産の技術を確立し沢山の懐中時計を世に送り出しました。現存数も多く比較的入手も容易ですが、装飾性の高いものから実用的なものまで幅広いモデルを生産していました。
Elgin
Walthamと双璧を成す当時の時計メーカーで、1864年にWalthamから技術者を招いて設立されました。一時はアメリカ国内で生産される懐中時計の半分を生産したとも言われる大手メーカです。現代では婦人向けの装飾性の高い文字盤を良く見掛けます。ムーブメントの美しさは他のメーカと比べていまひとつな所があります。
Edward Howard
こちらもWalthamの創業に参画したエドワード・ハワード(Edward Howard )が1842年に設立しました。他のメーカには無い高級で精密な時計を特徴とし、生産数も極端に少なく現存数が極端に少なくなっています。 1903年に懐中時計を販売する権利をキーストン(Keystone Watch Case Co. )に売却しました。
キーストンに買収される前の製品は俗にオールドハワードと呼ばれ、買収後の製品はキーストンハワードと呼ばれています。どちらも品質は優秀なのですが、オールドハワードの方が希少性、美術性も高くコレクターには人気となっています。
メンテナンスについて
機械式時計には定期的なメンテナンスが不可欠です。100年以上も前に生産された懐中時計であれば更に細かい手入れが必要になりますが、クォーツ時計の電池交換などをしている一般的な時計店ではなく、機械式時計の扱いに慣れた時計師さんの居るお店を探しておきましょう。分解清掃だけでも2万円~3万円程の費用が掛かりますが、放っておくと錆の発生や油が固まってしまい最悪二度と動作しなくなる事も有ります。大半の時計は既にオリジナルの部品は入手不可能であり、部品の交換が必要な修理は修理費用も更に高くなります。部品の製作まで請け負ってくれる時計店はそう多くありませんので、なるべくこまめなメンテナンスを心がけて大きな修理が発生しないようにしましょう。
http://www.latelier-de-cabinotier.com/
私がいつもお世話になっている時計師さんです。遠方の方は郵送でも受け付けてもらえると思いますので、一度相談してみてください。