そーせいグループM1作動薬HTL0018318 治験中断について

そーせいグループM1作動薬HTL0018318 治験中断について

21年1月追記:Allerganを買収したAbbvieから正式に開発の中断と全権利の返還が発表されました。M1の毒性所見についての発表はありませんでしたが、同時にそーせいから出された資料によるとM4の可能性を重視したものとなっていたので今後はこちらをメインに開発するつもりではないかと思います。臨床治験の中断から2年、やっと一区切りついた感じです。株価の方はまだ分割前8000円以下と、まだまだですね。しかしその2年の間に得られた新規提携と、Mシリーズの再導出の可能性を考えればもっと上がっていても良いのですが。

18年9月18日そーせいグループ株式会社から以下のようなリリースがありました。

「当社およびHTL0018318のライセンスパートナーであるAllergan社は、サルを対象にした長期毒性試験において予期しない毒性所見が見出されたため、その詳細を把握するまでの間、HTL0018318の臨床開発を自主的に中断することを決定しましたのでお知らせいたします。」

M1作動薬HTL0018318はアルツハイマー型認知症を適応とする低分子化合物で、そーせいグループ子会社のheptares社からアイルランド大手製薬企業のAllergan社へ140億円という巨額の一時金で開発権利が譲渡されました。(正確には他の化合物も含んでの金額)

heptares社で最も開発フェーズの進んだ創薬パイプラインであり、市場規模も数千億円単位となる認知症をターゲットとした治療薬として進捗が非常に期待されています。

しかし上記のようなリリースで開発は一時中断されました。今回起こった事について現時点で分かる範囲、そして個人的考察で情報をまとめておこうと思います。

1.発生した事象

サルを対象とした長期毒性試験にて、稀少な腫瘍の発生を確認。試験薬の投与期間は9ヶ月間、複数のサルで同様の事象が発生した。臨床使用量よりも多い量を投与。

他の動物で6ヶ月までの投与、人間に対して28日までの投与では安全性を確認している。

腫瘍とは体内で他の部位とは異なった増殖の仕方をする塊の事で、異様なスピードで増殖をするものは悪性腫瘍(癌)と呼ばれます。

“稀少な”と言うことからがん全体の1%程度にあたる神経内分泌腫瘍ではないか?との予測が出ていました。消化器官に広く分布するホルモンを生産する細胞の腫瘍です。

この結果を受け、アメリカ、日本で実施中だったHTL0018318の臨床試験は全て一時中断されました。用量は異なるものの、安全性に少しでも疑いがあるものを人間には投与できませんから、当然の措置かと思います。

2.長期毒性試験とは?

今回このような治験がAllergan主導で行われている事は全く把握しておらず、このタイミングで結果の発表があった事に驚きました。

しかし臨床での投与が長期間に渡る薬物は動物を使った反復投与毒性試験で安全性の確認が必須のようで、この試験は予定されたものだったと思います。恐らく問題がなければ結果が公表されることも無かったのでしょう。

具体的にどのような試験が行われたのかは、守秘義務により公表されませんでした。

承認申請時に求められるデータとしては、臨床での使用が3ヶ月以上になるものは非げっ歯類で試験期間9ヶ月以上(今回のケースはこれに当たる)用量は3群以上とし低用量は無毒性量、高用量では毒性量を投与するのが推奨されています。

また臨床での用量は動物で毒性が確認されないかった用量から50倍~100倍程度の安全率を見込む事が求められているようです。

以上の事から、毒性が確認される用量まで(臨床使用量の数十倍を)投与するのだから、今回の結果は毒性所見が見つかって当然、ただしそれが稀少な疾患であり様々な注意を要するため予防的に試験を一時中断したとの見方がありました。(毒性所見が得られた事自体は予定通りとの考え方)

3.腫瘍発生の原因は?

 M1作動薬は脳に分布するムスカリンM1受容体を標的にしていますが、その作用そのものが原因となった(オンターゲット)もしくは別の部位に作用したが故に腫瘍発生に繋がった(オフターゲット)の二つが考えられます。

HTL0018318はStaR技術とSBDDにより高度な選択性を持つ化合物ですが、人間が持つ受容体には構造が判明していないものも多く、更に今回のような長期渡る影響は予測が非常に困難と思われます。

よってオフターゲットによる原因も考えられますが、化合物の作用機序からムスカリン受容体への過剰な刺激が原因ではないか?と考えています。M1受容体は中枢神経やホルモン分泌細胞の働きを調整する役割がありますが、この事が先程の神経内分泌腫瘍へも繋がります。

認知症を適応とするドネペジルは、脳内のアセチルコリン量を増やすためにその酵素を分解するアセチルコリンエステラーゼを阻害します。何故そんな回りくどいことをするのか?だからイマイチ効果が薄いんだよ…とずっと思っていましたが、これは受容体を直接刺激すると用量リニアに効果が積み上がってしまい、毒性として現れてしまうからかも知れません。効果の高い薬品と、臨床で使える薬はイコールではないと考えられます。

4.Alleganへ導出済の他のパイプラインへの影響は?

そーせい側の発表では同時にAlleganへ導出されているM4作動薬、M1/M4デュアル作動薬は化合物の構造が違うため同じ問題は起こらないと言われていました。

しかしM1作動薬が受容体への過剰な刺激で毒性へ繋がったとすれば、M4受容体への刺激でも何か毒性が出る可能性は高まったと思っています。

M1の結果がどうであれ、M4他でも同じ試験は予定されているはずなので今から心配する事では無いでしょうが。

一番の懸念はこの治験の遅れによりAlleganが開発スケジュールを白紙にしてしまうことです。あれ程大きな企業であれば、少しでも懸念があれば今までの開発費に拘らず止めてしまうのは有り得る事と思います。それこそ上市してから発がん性が発覚すれば、莫大な損害賠償を被ることにもなります。

5.一連の件について個人的見解まとめ

今回一番気になった点は、治験中断の一報が有った後の説明会の内容でした。M1作動薬の状況を説明するというよりは失敗を前提として、他のパイプラインをアピールする資料となっていたように感じました。(そーせい側も詳細な情報を持っていなかった、そして状況から楽観よりは最悪を想定するのが当たり前かもしれませんが。)

今回の毒性所見は想定外の疾患ではあったが、発生の可能性は予期されたもの、安全な用量を設定すれば問題ないとするにはマネジメントの動揺が大きする気がしました。

DLBの治験について語っていたCEOの態度から、化合物にかなりの自信を持っていたようなので当然でしょうか。

動物で起こったことが人間では起こらない事をデータから精査すると言っていましたが、新しい試験無しにそれを証明するのは困難な事ではないかと思います。

安全な用量を探索する事が目的ならば安心できたのですが。

以上からM1作動薬が開発中止になる確率は残念ながら高い気がしています。

更に他の導出品も中止される可能性は現状のタイムスケジュール(当初からかなりの遅れ)を考えてこちらもそれなりの確率と考えています。30%程度かな…。

しかしそーせいはDLB治験用に調達した200億円超の現金とノーベル賞級のたんぱく質構造解析技術、SBDDが可能な人材、研究施設、導出済みパイプライン、上市済み医薬品、アカデミアとの連携など企業活動を支える資産が沢山有ります。パイプラインの1つや2つ失っても問題ない体制が整えられています。(Mシリーズのマイルストンはかなりの金額になるので、惜しいのは確かですが…。)

バイオベンチャーで有りながらそのような冗長性を持った企業だからこそ投資しているので、今回の件では売却する理由にはなりませんでした。

改めて医薬品の開発は難しい、そして他社のポートフォリオも遠回りな気がしてもそれなりの理由があるのが分かりました。

株価の方は発表後ストップ安2連続、40%程度の下落となりましたが発表から10日程経った今は20%程度まで戻しています。

寄らずの40%下落ではレバレッジ2倍、信用2階建てで資産の大半を失う値動きです。

丁度株価が反転し始めた時だったので、大き目のポジションを取っていた人も多かったと思いますが、どれだけ自信が有っても単一の悪材料で資産を失うようなリスクテイクは避けるべきですね。

まだまだ長い道のりですが、一株主としてこの先もそーせいグループに関わって行くつもりです。

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