事業内容
サンバイオ株式会社は脳梗塞、外傷性脳損傷などによる脳細胞へのダメージを再生させる薬の開発を行っています。従来脳細胞は一度死滅すると二度と再生しないのが定説であり、上記疾病の治療はリハビリなど非常に限られたものしかありませんでした。しかしある条件下で脳細胞の再生が示唆され、日本で再生医療促進の為に法改正が行われたことも有りアメリカで研究を続けていたサンバイオは日本の市場へ上場することになります。
人間の細胞はたった1つの細胞から分裂し、様々な機能を持つ細胞へ「分化」することにより構築されています。その「分化」する以前の細胞が脳に残っている事を発見し、その細胞に働きかけ脳細胞へと変化させることで脳の再生を行おうとしています。
この薬の一番の特徴は低分子や中分子ではなく、生きた細胞を薬として使うことでしょう。他人の細胞を移植すると体内の免疫が反応し、移植した細胞を攻撃してしまいますが、脳の場合はその免疫の仕組みが働かないので大量に培養した他人の細胞を移植することが可能です。その為本人の細胞を培養して投与するよりコストを大幅に下げられます。
パイプライン一覧
現在根本治療が無いとされる脳損傷、加齢黄斑変性性、アルツハイマーなど開発できればファーストインクラス、市場規模は数千億円に達するような適応が並んでいます。その殆どが1本のパイプライン、SB623によるものです。
治験フェーズは比較的進んでおり現在フェーズ2が完了、日本では再生医療促進法案によりフェーズ2のデータを使い承認申請が可能です。(ただし販売先は限定され、販売をしながらフェーズ3相当のデータを収集することが求められます。)基本全額開発企業負担で行われるフェーズ3を、製品を販売し収益を得ながら行えるのは非常に有利と言えます。
治験進捗について
SB623の治験については以下のようなデータが公表されています。
外傷性能損傷についてはプラセボ群と比べ有意差有「成功」
慢性期脳梗塞についてはプラセボ群と有意差無「失敗」
同じSB623で脳への投与ですが、効果に大きな差が出ました。微妙に評価項目が違いますし、条件も違うのですが他方では明確な効果が認められる一方で効果が無い疾病も出てしまいました。
さてこの2つの発表は外傷性能損傷→慢性期脳梗塞の順番で発表されました。前者で成功したのだから、後者も成功するだろう…そのような雰囲気が市場には漂っていましたし、競合する薬の無い新規マーケット、発売されれば数千億の売上げも見込めるのでは?と市場は色めき立って居ました。
そのような期待も有り、外傷性脳損傷の成功をきっかけに株価は以下のような推移を辿ります。
治験成功のIRからストップ高3連続、3000円だった株価は一気に倍になり、そこから更に倍で4倍まで駆け上がりました。この時時価総額は5000億円程度にまで達します。
魔の治験失敗、4連続ストップ安
そして慢性期脳梗塞で有意差無しのIRがほぼ高値付近で出てしまいます…。
高値から何と4日連続のストップ安で比例配分、殆ど出来高は有りませんでした。ざら場で寄った日の安値は2401円、IR発表前の1/5程度の価格となりました。売れない株を抱え資産が減っていくのは本当に恐怖です…創薬バイオ企業の怖い所はこれです。特にサンバイオの場合パイプラインが少なく企業価値の殆どをSB623が占めており、その治験が失敗したのが災いしました。
10000円を超える株価だったことも有り、個人投資家の大半は信用取引も使いサンバイオ株を取引していました。そして東証マザーズ指数は時価総額により指数ウェイトが決まる為、時価総額5000億円を超えるサンバイオの指数組み入れ比率は高くこの下落でマザーズ市場全体の大暴落を引き起こしました。
個人投資家の中には資産を全額毀損し、さらに信用取引により借金まで負ってしまう人が出てしまいました。
他にもTwitter上では1億円に届きそうな資産から一転1000万円以上の借金を負うことになってしまった方も居たようです。
投資は自己責任…とは言いますが、信用取引をさせて金利や手数料を取ろうとしている証券会社にも責任の一端はあると考えています。(債務は回収不可能になる可能性も考慮して貸し付けるのが当たり前。)
値動きの激しい、それも治験の成功如何では大きな変動が予想される新興バイオ銘柄を現物との二階建てで信用取引させるのは正気の沙汰ではないと考えています。それは勿論投資家本人にも当てはまりますが…。
まとめ
サンバイオのパイプラインは成功すれば非常に有意義で、治療法の無い病気に苦しむ多くの人を救う可能性を秘めていますが今の状況を見ると投資対象として見るのは厳しいと考えています。
外傷性脳損傷は国内で早期承認され発売される可能性もありますが、それを考量しても現在の時価総額が1000億以上ある状態では織り込んでしまっているでしょう。
まずはもう少し株価が下がるか、他の適応で治験が成功するかを見極めてから改めて評価してみたいと思います。
19年末追記:慢性期脳梗塞の治験を進めていた大日本住友製薬は開発の中止を決定しました。幾分織り込んでいたので株価は2連続ストップ安程度でしたが、その後怪しい?レーティングにより株価は上昇傾向…どうなるのでしょうね。